大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和29年(う)546号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を神戸地方裁判所に差し戻す。

理由

原判決は所論のとおり本件には管轄権がないとして管轄違の言渡をしたものである。

そもそも裁判所法第二十四条第一号、第三十三条第一項第二号の規定によると罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟の第一審は簡易裁判所の専属管轄に属することになつているのであるが、いわゆる罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟事件とは、訴訟の客体である犯罪が罰金以下の刑にあたる訴訟事件をいうのであつて罰金の外懲役にもあたる罪の訴訟事件は、当該被告人に対しては単に罰金刑にのみ処し得べき場合でも、簡易裁判所の専属管轄に属しないで地方裁判所にも管轄権があるものと解するのが相当である。けだし一般に罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟事件は軽微でその審判も比較的簡単であるから、これを簡易裁判所の専属管轄にしたのであるが、これに反し罰金若しくは懲役にあたる罪の事件は重大且複雑難渋なものもあるから、法律はかような事件は地方裁判所の管轄にも属せしめたものと解すべきであるからである。

ところで本件物品税法第二十二条の如きいわゆる両罰規定に基き、代表者又は従業員が違反行為をなした結果その事業の経営者たる法人又は人が処罰せられる場合にあたりては、該違反行為の遂行につき営業者の所為乃至意思は何等介入しないのにかかわらず、行為者本人の違反行為に随伴して営業者が法律上責任を負担するもので営業者のこの刑責はいわゆる連座規定による結果である。(昭和二七・八・五最高裁第三小判決参照)よつてこの場合の訴訟において審判の対象となるものは行為者本人の違反行為そのものであつてそれ以外に営業者たる法人又は人の行為の如きものは存しないのであるから、この場合の訴訟の客体たる犯罪は行為者本人の違反行為を指称するものといわなければならない。しからばかかる両罰規定に基き営業者たる法人又は人に対する訴訟の事物管轄を定むるにあたりては、右の趣旨における訴訟の客体たる犯罪を基準としなければならない。従つて行為者本人の違反行為の刑が罰金の外懲役にもあたる場合には、これを罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟以外の訴訟であるというべきであり、前示裁判所法第二十四条、第三十三条所定の管轄の区別も右の標準によりて決すべきものである。

本件公訴事実は被告会社の代表取締役藤尾貞夫が被告会社の業務に関し物品税法第十八条及び第十九条該当の違反行為をなしたことにつき、同法第二十二条により被告会社を処断すべきものであるというのであつて、右の内訴因第一の同法第十八条該当の罪の法定刑は行為者本人につき懲役又は罰金となつているのであるから、被告会社に対しては同法第二十二条により罰金以外の刑を科し得ないにせよ、右の訴訟は前叙の理由により罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟以外の訴訟であるから、裁判所法第二十四条第一号の規定により地方裁判所にも裁判権があるもので、専ら簡易裁判所のみが、裁判権を有するものということはできない。しかして訴因第二の物品税法第十九条該当の罪の法定刑は罰金のみであるが、刑事訴訟法第九条、第三条に則りこの点の訴訟についても訴因第一の訴訟と共に地方裁判所が管轄することができるのであるから、本件訴因全部につき地方裁判所が審理裁判を為し得るものである。しからば本件は地方裁判所である原審の管轄に属しないものとした原判決は、不法に管轄違を言い渡した違法があるから、本件控訴を理由ありとし、刑事訴訟法第三百九十七条第一項、第三百七十八条第一号、第三百九十八条により主文のとおりの判決をしたのである。

(裁判長判事 岡利裕 判事 国政真男 石丸弘衛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例